バットマン・タンデュが出来ていますか?
タンデュの意味は
「張る」
この意味から、動きを考えるとどうなるでしょう?
仏語 tendu は、英語だと tense です。
ピンと張った、張り詰めた、緊張した、などの意味です。
タンデュを、「伸ばす」と考える人もいるでしょう。
伸ばすは stretch (ストレッチ) です。
張る と 伸ばす は意味が違いますね。
大人の生徒さんにバレエを教えていると、
「あ、この人はきちんとバットマン・タンデュを教わっていないで今まで来ちゃったな…」
と、思うことがしばしばあります。
例えば、
ジャンプでの空中で膝が曲がる
グリッサードなどでの床を滑るような動きで足が床に引っかかる
などなど。
特にアレグロの動きでのぎこちなさが目立ちます。
アグリッピナ・ワガノワ先生は、バットマン・タンデュについて
「このバットマンは、あらゆる舞踊の基礎である。その創造者は、脚の靭帯の構造と機能の本質そのものを深く理解していると思われるほどに、その発見は偉大なものである。舞踊手の日常生活の単純な一例がこのことを証明している。(中略) 脚が正しく動いていないときには、その舞踊手は、かつて厳格なバットマン・タンデュの教育を受けなかったということがすぐにわかるのである。」
(『ワガノワのバレエ・レッスン』 アグリッピナ・ワガノワ著 新書館 55ページより引用)
さて、どうすればバットマン・タンデュをマスターすることが出来るのでしょうか?
バレエ教授法では、バットマン・タンデュについて、下記のように事細かく指示されます。
- ステップ名称の意味
- 音の取り方
- 方向の順序
- 動かし方
- 両手バーの期間
- 片手バーへ移行するタイミング
- センターへ移行するタイミング
- ターンが加わるタイミング
- などなど。
ロシア・メソッドでは、バットマン・タンデュは伸ばすという意味合いよりも張ることの方が重要視されます。
(そもそも関節がしっかり伸びる生徒がオーディションで選ばれますので…)
タンデュを伸ばすという意味で理解した人は、タンデュの動きの性質を100%理解しているとは言えないということになります。
特に、膝を伸ばすというイメージを持っていると、それは違うのです。
バレエでは、立っているときに脚の関節を伸ばして使うのは、「立ち方の法則」で決められています(「伸ばし方の法則」もあります)。
ですので、脚を方向に出すときに、膝をわざわざ伸ばすということはしません。
バットマン・タンデュで脚が方向に出るとき、ではどこを伸ばせばいいのでしょう?
それは足首と趾先です。
甲を敢えて伸ばそうとしません。
立ち方の中で、足裏の引き上げが入っているので、もう甲は伸びている状態です。
バットマン・タンデュで伸ばしていくのは、足首と趾先だけです。
膝と甲は立っているときに充分に伸びています。
そして張っています。
張らせる動かし方というものがあります。
それを徹底的に指導します。
タンデュをただ、伸ばせばいいや!と考えると…
動きの構築という概念を持ちにくくなります。
教授法に則って、動きの概念を生徒に植え付けるように、指導します。
そうやって、バットマン・タンデュをマスターしていくのです。
長い年月が必要なのも頷けると思われませんか?
動きの断片を捉えると動きそのものは出来るようになるかもしれません。
解剖学やトレーニングの知識を駆使したら、動きそのものはそれらしくなると想います。
ですが、それは動きをマスターする上で数多くある過程のうちの一つに過ぎません。
それらしい動きができたとしても、次の段階ではどうなるでしょう?
一つ一つ階段を登る必要があるのに。。。
例えばバットマン・タンデュをマスターするための階段が100あるとしましょう。
その中の30段目が出来たとしても、
その前の29段までが空白だとしたら、
31段目に登れるでしょうか?
階段を都合の良いように切り取ることは、
残念ながら効果的な練習方法とは言えないと思います。
大変ですが、一段一段登るしかないのです。
でも、一段ずつ登るスピードを上げることは、可能です。
それが解剖学やトレーニングの知識です。
実力の階段を登ることとスピードアップは性質が違います。
その差をしっかりと見極める必要があります。
そして、階段を踏み外すことなく登るために必要なものが、バレエの法則です。
バレエのあらゆる動きの基礎「バットマン・タンデュ」が持つ動きの性質をぜひ多くの生徒さんが理解できるような環境が整うことを願わずにいられません。
その環境づくりのためにバレエ教師として何が出来るか、
いつも自問自答を繰り返しています。
参考図書