私が子どものとき、
バレエを教えるのは、
バレエ教師の専売特許でした。
ところが、最近は、バレエ教師以外の人が「バレエ」を教えることが多くなってきたように思います。
バレエの普及が進むに連れて、バレエに関わる方たちの活躍がめざましくなってきています。
トレーナー、整体師、医師、理学療法士、etc.
身体を研究した方たちがバレエダンサーの身体や動かし方について
ご自身のフィールドの観点から述べられています。
バレエがそれだけ注目されているということで、喜ばしいことなのかもしれません。
ですが、喜んでばかりもいられません。
私は、バレエ教師です。
バレエの正しい形と身体の動かし方、バレエの法則を教えるのが
バレエ教師の仕事です。
生徒さんは、教師からの指示を吸収します。
私はここに恐怖を覚えます。
間違ったことを教えることについてです。
その恐怖故に、正しいバレエの法則に対する貪欲さを失うことができません。
スタジオを立ち上げた頃、解剖学的アプローチを提唱していた私は、
指導内容の変更を余儀なくされることが度々ありました。
どういうことかと申しますと、
国際ダンス医科学学会(IADMS)で新しい論文が発表されると、
「解剖学的な見解が新しくなりました。いままでの筋肉の使い方は、古いということになりました。今後はこの筋肉を使ってください」
といった報告がなされていたので、それに合わせる形で、指導内容を変えていたのです。
それが生徒さんのためだと自負していました。
今から考えると空恐ろしくなります…。
バレエにおいて大切なのは、正しい形と正しい動かし方、つまり「バレエの法則」を教えることです。
ここがバレエ指導の本質です。
解剖学的に理にかなった動きを教えることではありません。
そもそも、バレエでの正しさは、解剖学では説明できません。
バレエでの正しさは、バレエの法則に則っているかどうかです。
バレエの力学とも言えます。
力学的に理にかなったバレエの動きをする。そのために、この形を取る。
これだけです。
つまり、力学的に理にかなった動きができるように導くのが、バレエの指導です。
バレエの力学に合う形が作れないときは、
これこそ、上記にあげた
トレーナー、整体師、医師、理学療法士、etcさんたちの出番です。
エクササイズなどの指導や、身体の調整を行うことで、バレエに合った形を作れる身体の改造を行って下さい。
それは、形が作れない人の個々の問題になります。
解剖学という標準化された知識で一括りに出来るものではありません。
専門知識があれば、解剖学的な解説はいくらでもできるでしょう。
でもそれは、バレエという本丸を周りから見たらこう見えるという周辺情報です。
バレエでは生徒が正しい形を獲得することが本丸です。
その本丸を建てるのがバレエ教師です。
バレエ教師はカリキュラムに従って生徒にバレエの正しい形を教えていきます。
本丸を周りから見ている立場で、本丸の作り方を語るとどうなるでしょう。
・子育てしたことがない人が語る子育て論
・日本に住んだことがない人による日本人論
・歌ったことがない人による歌唱法
・医者じゃない人の外科手術
・素人が建てた家
etc.
どうですか?
お金を払ってでも手に入れたいでしょうか?
バレエも同じです。
バレエ教師とバレエ教師でない方たちでは、立ち位置が違います。
ここは見誤らないでいただきたいと思います。
レッスンを受けてもバレエが上達しない。
バレエの上達には、生徒さんの身体条件はとても重要な要素です。
でも、それ以外にも原因があると思います。
バレエ教師がバレエを教える。
一見、当たり前のようですが、これが十分機能していないと、本丸が周りから侵食されてしまいます。
生徒さんの伸び悩みの原因は、バレエ教師の指導力が高まれば高まるほどなくなっていきます。
バレエを学ぶすべての方が、正しいバレエの形と動かし方(バレエの法則)を学べる日が来ることを願います。
8月28日(日)に『解剖学をバレエに生かす極意と鍛錬』と題して、DF夏期講習2016第三弾を開催します。
解剖学とバレエがどのような関係なのか、アレグロやターンを上手に踊るためのコツなどについてお話します。
講師陣は、
森脇俊文(動作分析のプロ)
猪野恵司(バレエトレーニングディレクター)
石島みどり(バレエ教師)
長岐裕之(ターンアウトスペシャリスト)
詳細はこちら。
ぜひお越しください。
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