
「肋骨を閉めて!」
このような指示を聞いたことがあるでしょうか?
ロシア・メソッドでは、どうか調べてみましょう。
上体の立て方について、ロシア・メソッドでの法則は、次のとおりです。
「尾骶骨をかかとに向けて下ろすようにして、仙骨を下ろします。腰を上に上げ、下腹も引っ込めて引き上げ、脚の付け根に沈み込まないように注意します。さらに、胸郭を下ろしながら、胃を引き上げます。」
(『ロシアバレエレッスン① 初級編 第1学年』エマ・A・ブリャーニチコワ 著 音楽之友社 34P より引用)
肋骨についての記述が一切ありません。
肋骨が飛び出てしまう人の特徴は、
腰を反って、出っ尻になっているということです。
ロシア・メソッドでの上体の立て方では、「尾骶骨を下に下げる」ですから、出っ尻にはなりません。
背中が1本の垂直なラインを描きます。
尾骶骨を下に下げて、背骨をまっすぐにすると肋骨は開きもせず閉じもせずの安定した場所に収まります。
この形が肋骨の正しい形です。
ここで実際に行っていただきたいことがあります。
肋骨を閉めて、後ろにカンブレ(上半身を後ろに反る動き)してみて下さい。
できないですよね?
そう、できないんです。
立っているときはどうにか閉められた肋骨も、動きが加わった瞬間にフリーな状態になります。
だとしたら、何のために肋骨を閉めるのでしょう?
その必然性は明らかでしょうか?
バレエは、動きによって成される芸術です。
動きで音楽を表現するのです。
絵画のように、ただ立っているだけで動かないのであれば、それはバレエとは言えません。
肋骨は、動きの性質に応じて、自由に動かせる状態を維持すべきです。
また、肋骨を閉めようとすると、肩が前方向に閉じやすくなりますので、こちらも動かしにくくなります。
バレエを踊るときは、身体の前面に緊張があってはいけません。
観客はダンサーの前面を見ているのです。
肋骨が閉まっていて、肩が閉じている姿はバレエの様式美に反します。
ダンサーが緊張させなくてはならない場所は身体の後面です。
後面では、肩甲骨の置き方・背筋の使い方・お尻の下と太ももの境目のくぼみ、これらについて教授法の中で細かく規定されています。
前面は広く、平らで、おおらかな表現が出来るように自由に扱わなければなりません。
結局、肋骨を閉めるということはしないのが正解、となります。
「肋骨を閉める」という間違った情報が、生徒のみなさんを惑わしていると感じています。
バレエの法則はシンプルです。
普段の生活と同じように動くことが前提となっています。
もちろん、普段の生活でターンアウトなどしないと思いますが、
動きそのものの法則は、極めてシンプルで、力学上の理にかなっています。
実際、教授法では、
「普段の生活の動作を引き合いに出しながら指導するように」
と、言われます。
普段の生活では肋骨について、あまり意識しないですよね?
意識したら、上体の動きがぎこちなくなると思います。
肋骨は閉めませんし、開きもしません。
上体を正しく立てれば、肋骨は定位置に収まります。
もしかすると、あなたは「肋骨を閉めて!」というアドバイスを見たことがあるかもしれません。
●誰でも情報発信、の功罪
最近は、ネット上で誰でも簡単に情報発信ができるようになりました。
その中にはバレエに関するものも含まれます。
身体作りであったり、上達のコツであったり。
ただし、一つだけ注意して頂きたいことがあります。
それは、
「バレエの上達について語っている人が
バレエの教授法を学んでいるか」
です。
トレーナーや治療師など、身体の専門家がそれぞれの見地からバレエについて良かれと思うことをブログなどで発信しています。
でも、もしそれを書いている人が「バレエを教えることについて素人」だったとするとどうでしょう?
その道のプロではあっても、バレエの指導については十分な教育を受けていないということは十分ありえます。
というより、むしろそういうケースがほとんどだと思います。
ここで言う素人には、バレエの生徒さんも含まれますし、場合によってはプロのダンサーも含まれます。医者や学者も同様です。
バレエを習ったことがあるとか、バレエが踊れるということと、生徒にバレエを教えられるということは別物です。
この違いをアドバイスを受ける生徒さんも認識する必要があるし、アドバイスする側も同様です。
そこで語られているバレエは、教授法に則った正しいバレエではなくて、
「きっとこういうことだろうな」
という、自己流(なんちゃって)バレエです。
「バレエもどき」
といっても良いでしょう。それを
「バレエではこうする。」
と断定的に書いてしまう。
きっと良心からのアドバイスなんだろうと思います。
自分の専門分野から見るとこんなことが言える、きっと役に立てる、と。
でも、ネット上の情報は玉石混交です。
もっともらしく書かれているからといって、鵜呑みにしてしまうのは禁物です。
一つの意見や見解として受け止めるに留め、自分なりに本当かどうか確認したり、あえて反対意見も調べたりするなど、ワンクッション挟むことが肝要です。
このブログも例外ではありません。
少し話が逸れました。
これについては、また別の機会に。
参考図書:『ロシアバレエレッスン① 初級編 第1学年』エマ・A・ブリャーニチコワ 著 音楽之友社