バレエの古典作品が好きです。
くるみ割り人形、白鳥の湖、眠れる森の美女, etc.
ロシアの作品が好きで、特にマリインスキーのバージョンが好きです。
団員全員のニュアンス、音の取り方、表現がまとまっていて、不快さが一切ありません。
ロシア国内で教育を受けたアカデミックな踊りが高度な舞台芸術として完成されていると感じます。
このカンパニーを支えているのは、アカデミックな教育です。
みなさんは、団員達が日々受けるカンパニーレッスンとバレエ学校で受けるアカデミーレッスンでは
踊りの捉え方がまるで違うことをご存知でしょうか?
私がスラーヴァ先生に教授法を学び始めた頃、先生ははっきりと仰られました。
「カンパニーレッスンの目的はウォーミングアップ、アカデミーレッスンの目的はコーディネーション強化」
目的がまるで違いますね。
目的だけでなく、レッスン時間も違います。
カンパニーレッスンは60分前後、アカデミーレッスンは90分前後。
もちろん、レッスン内容も違います。
目的が違えば、その内容・時間も変わります。
カンパニーレッスンでウォーミングアップを済ませたダンサーたちは、その後リハーサルを行います。
新作・古典など様々な演目のリハーサルを行います。
そこでは、演出家・振付家の指示通りに動かないといけません。
指示通りに動かなければ、降板させられる可能性があります。
振付家が古典の振りを改定したとしてもそれに従わなくてはなりません。
一方、アカデミーではどうでしょうか?
振付家によって改定された作品をアカデミーで教わるでしょうか?
そんなことはありませんね。
数年おきに改定されるかも知れない振りにいちいち従っていては、踊りの伝承から外れてしまいます。
アカデミーでは型として伝承されている古典の振りを学びます。
作品のニュアンス、音の取り方、表現法など、正確に伝承されていきます。
型ですから当然ですね。
アカデミーではカンパニーが求めている人材を育てます。
ロシアのバレエ・アカデミーは職業訓練校です。
その目的は、ロシア国内のバレエ団に生徒を入団させることです。
入団前に、ロシア国内で踊られている主要レパートリーを、アカデミーである程度マスターしておく必要があります。
振付家の新しい作品は扱いません。
それはカンパニーに入ってから学べばいいという考え方です。
なぜなら、ロシア国内で踊られる主要バレエ作品をマスターするだけでも相当に長い時間がかかるからです。
アカデミーで新作・古典の改定の両方を学んでいる時間はありませんし、そもそもその必要はありません。
なぜなら、
古典の型を習得していれば、カンパニー入団後でも改定版をマスターすることはさほど難しくないからです。
これが逆だったらどうでしょう?
アカデミーで改定版を学び、入団してからオリジナルな古典を踊らなければならないとしたら?
順序が逆ですね。
まさに本末転倒。
冒頭で、カンパニーレッスンとアカデミーレッスンの違いについて述べました。
それは、作品に対する考え方にも共通しています。
まず、アカデミーで作品の土台を学び、カンパニーに入って新しい振りや考え方に触れる。
そのためにリハーサルの時間があるのです。
新しいことへの順応のために必要なリハーサルです。
そもそも、作品で踊られている動きをすべて学ばせるというのがバレエ教授法の使命です。
時代は動いています。
バレエ作品にもさまざまなバージョンがあります。
マリインスキーでさえも同名作品に複数のバージョンを持っています。
『くるみ割り人形』では、ワイノーネン版(1934年初演)とシャミューキン版(キリル・シーモノフ振り付け、2001年初演)の2つのバージョンを持っています。
ワガノワ・バレエ・アカデミーが年末にマリンスキー劇場で行う『くるみ割り人形』の舞台はワイノーネン版です。
ですから、アカデミーでもワイノーネン版の練習をします。
アカデミーにも優先順位があり、その優先順位に沿って作品を学びます。
その優先順位が変化する日が来たら、違うレパートリーになるかも知れません。
振付家による改定に合わせて振りのニュアンス・音の取り方・表現を変えていったら、アカデミーの役割は一体何になるでしょうか?
職業訓練校としての役割を全うできないで生徒をカンパニーに入団させることはできません。
振りのニュアンス・音の取り方・表現法を変えるとしたら、それは振付家がそのように要求したときのみです。
振付家の要求に応えるのがプロダンサーのしごとですから。
当分の間、ロシアの国立バレエアカデミーではこの現状維持で進んでいくと思います。
時代に合わせてはいけない優先順位があるからです。
ところが、日本ではアカデミーレッスンの内容が変えられてしまうことが普通に行われています。
解剖学的に正しいからとか、トレーナーから教わったからという理由によるようです。
なぜそういう事が起こるのでしょうか?
そもそもの話になりますが、日本のバレエ教師の85パーセントはバレエ教授法を学んだことがないという報告があります。
という事は、バレエの上達のさせ方を知らずに指導している教師が大半ということになります。
だから、指導力を身に付けたくて解剖学などを学ぶのかも知れません。
そこで、納得する部分を取り入れた結果、レッスン内容が変わってしまう、ということではないでしょうか?
でも、これも本末転倒。
バレエ教授法を学んでいないのなら上達させられないのは当たり前の話です。
そこに目を向けずバレエの外に答えを求めてしまったら、ますますバレエから離れてしまいます。
バレエを学びたいのに、バレエから遠ざかってしまう、という現象がバレエ教師の間で起きています。
そういう日本のバレエ教師の問題があるなかで、本物のバレエを学んだ精鋭を探すのはとても大変ですね。
一方ロシアでは、伝統芸能として様式美を継承するバレエがあります。
その継承が時代背景と相まって、今後どのような変貌を遂げるのかは知る由もありません。
時代の波に抗えないのか…
バレエファンの皆さんにとっては、時代の変化でロシアのバレエ・アカデミーがどのような変化を遂げるのか
目撃できる時代に遭遇しているのかも知れません。
変化しないかも知れませんし、するかも知れない。
私自身は変化しないでほしいと願います。
ロシアまで変化してしまったら、古典が消えてしなうのではないかと危惧するからです。
新作の良さもあるけど、それはロシアで古典を守り続けているからできることだと思うのです。
古典作品を愛する者として、ロシアだけは古典を守り続けて欲しいと強く思います。
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