ワガノワ・バレエ・アカデミーは、4月後半からとても忙しくなります。
進級試験が、毎日のように行われるからですね。
クラシック・バレエ以外のダンスも含めての試験。
生徒たちのスケジュールはとてもハードです。
極度の緊張状態から体調を崩す生徒もいるし、怪我をする生徒も出てきます。
それでも、進級試験にパスしないと生き残れない世界なので、全員必死。
特に7年生にとっては、進級試験は大きな試練となりまりす。
パスすれば、8年生に進級でき、そして卒業が約束されます。
パスできなければ7年間の苦労が水の泡、退学です。
パスできなかった生徒は、他校への転校を勧められることもあるようです。
いずれにせよ、ワガノワ・バレエ・アカデミーでは、もう学べません。
7年生の緊張状態は、それはそれは半端じゃ無いと、在学生から聞きました。
ワガノワ・バレエ・アカデミーを卒業できれば、ディプロマ(卒業証明書)が授与されます。
このディプロマがあるかないかで、入団へのチャンスが違ってくると言うのです。
現ワガノワ・バレエ・アカデミー校長のニコライ・ツィスカリーゼ先生は、
このディプロマが入団でどれほどの効力を持っているか、ということを語っています。
その内容は、こちら
ディプロマがもらえるかどうかが、国立バレエ学校の生徒たちにとっては、将来に影響するとても大事な関心事なのです。
ディプロマというものの存在を、日本でバレエを習う生徒たちは、もしかすると知らないかもしれません。
学校だから、カリキュラムを修了すれば卒業証書をくれる。それがディプロマです。
日本でも普通の学校を卒業したら、授与されますね。
ワガノワ・バレエ・アカデミーなどの国立バレエ学校は、
職業訓練校 です。
国家レベルでクラシック・ダンサーを育成する職業訓練校です。
税金でダンサーを育成するのです。
国として、質の高い芸術作品を国民に提供するためですね。
だから、実力不足の生徒にまで税金は使えません。
そういう生徒は、強制退学させられます。
税金を無駄に使う訳にはいかないので。
とってもシビアです。
そのようなシビアな世界で8年間習ったということは、特別に価値があることなのです。
それを形にして表したものがディプロマです。
だから、ディプロマは世界中のバレエ団で通用するのです。
レベルの高いダンサーだということをディプロマが証明していますから。
イザという時に出す印籠のようなものです。
日本では、たいていバレエは習い事で、その延長でプロになりたいという夢を持つ生徒がいます。
だから、
「プロになれたらなりたい。」
という消極的な夢を語る生徒が多くなります。
プロになれなければ、今まで通り生徒としてレッスンが続けられればいい、という保険付きです。
でもこれは、ワガノワ・バレエ・アカデミーのような入り口からシビアな世界がある、ということを肌で感じることができない環境とも言えます。
この温度差を残したまま事がうまく運んで、仮に留学できたとしても、
周りの真剣度に圧倒されて、帰国してしまう若い日本人ダンサーが後を絶たないのも事実です。
そういう子達は、容赦なくふるい落とされる職業訓練校で努力し続けている現地の生徒と、自分の価値観のギャップに耐えられなくなるのだと思います。
日本のお稽古としてのバレエと、海外の職業訓練としてのバレエ。
この2つのバレエに、大きなギャップがあるということを、日本の生徒も、親も、教師も知っておいたほうがいいと思います。
幻想と現実は違うのです。
海外に行って、すぐに帰国するような事のないように。
そうやって帰国した子は、バレエを完全にやめてしまう、ということもあるでしょうし、
心に深い傷を負うこともあるでしょう。
それでは、その本人も家族も不幸ではないでしょうか。
もちろん、その辛い経験から某かを学ぶ可能性はあるので、すべてを否定する必要はありませんが。
そもそもなぜ私がこの記事を書いているかというと、バレエを愛する者の一人として、バレエを理由に不幸になってしまう人を一人でも減らしたいからです。
だから、今後、そういった不幸が起こらないようにするためにも、海外はとてもシビアな世界だということを、留学前に知っておいてほしいのです。
ちなみに、制度上、留学生にはディプロマが授与されないことが珍しくありません。
現地の生徒と同じカリキュラムを修得しても授与されないのです。
そういったことも考慮して、留学するかどうかを考えた方が良いでしょうし、
行くならどの学校にするのか、吟味されたほうが良いと思います。
ディプロマという印籠を持って、一人でも多くの日本人ダンサーが、世界のバレエ団で活躍して頂けたらと思います。
※ 現地の入学オーディション合格者に身体条件を近づける現実的な答えがこちら↓