正しい形を教えているのに上達しない生徒に見られる
5つの要素の解決策。
前回は、その2 深部感覚についてお話しました。
今回はその3。
プロのバレエダンサーとして活躍するために、 バレエテクニック以外で必要な5つの要素。
1. 音楽性
2. 深部感覚
3. 柔軟性
4. コーディネーション能力
5. 個性(バレエに向き合う姿勢)
今回は
3.柔軟性
について解説します。
3. 柔軟性
バレエダンサーにとって必要な柔軟性は…、
「2) 運動機能(足の開き、足の甲、上体の柔軟さ、脚のリフト力、跳躍)の発達。足の開きをよくし、靭帯と筋肉の弾力性、関節の柔軟性を高める床の上の補助的な運動を行います。」 (『バレエの姿勢づくり〜ストレッチと体形の矯正』 タマーラ・ワシリーエワ著 かるさびな出版 13pより引用)
上記の文は、国立バレエ学校の1学年の生徒のための課題として記されています。
クラシック・レッスンのなかでバレエ教師が行うプログラムとして、柔軟性向上のためのイラストが載っています。
代々受け継がれてきたプログラムが素晴らしいこともあり、バレエ教師が指導できる内容となっています。
1学年の指導では、身体づくりが重要な課題としてカリキュラムの中に落とし込まれています。
動画は、ワガノワ・バレエ・アカデミー入学準備クラスの運動機能向上のためのエクササイズ。
上記書籍の中では、柔軟性は、運動機能の一部という位置づけです。
一部ということは、それだけでは不十分。 他の機能と相まってはじめて役に立つということです。
バレエといえば、 一般的には柔らかい体をイメージする人が多かと思います。
でも、体が柔軟であっても、 それを使いこなす能力がなければ宝の持ち腐れです。
そんなことにならないよう、 他の運動機能の発達を促すことも同等に重要です。
ワガノワ・バレエ・アカデミーでは、 クラシック・レッスンの他に
「バレエ体操」
クラスがあるそうです。
そのクラスでは、運動機能の向上を図るプログラムが提供されているとのこと。
そして、そのクラスは、体操指導の専門家か、体操に詳しいバレエ教師が担当するそうです。
通常、バレエ教師の専門は、バレエのテクニックの教授です。
極論で言うと、それ以外については素人です。
柔軟性については、一般の人よりは詳しいかもしれませんが、専門家には劣ります。
だから、そこは専門家に任せます。
ここでも、餅は餅屋です。
素人が口を挟むところではありません。
下手に指導しては、効果に劣るか、怪我をさせてしまう可能性があります。
実際、そういうケースで故障した生徒と会うことがあります。
その教室では、 当たり前の慣習でも、 端から見るととんでもない無理をさせているような話は、珍しくありません。
教師本人はそれをやってきた
ということが理由となっていることがありますが、
個人の経験を一般化することや、 それを強要することは、とても危険です。
バレエ教師が、専門外の柔軟性の指導をすることで、弊害が生じているわけです。
また、先に述べた国立バレエ学校の柔軟性向上プログラムを オーディションを経ていない日本の子どもたちに指導することは大変危険です。 前提条件が違うのなら、指導内容も変えなければならないからです。
そこで、バレエ教師(=バレエテクニックを教える専門家)であるのだから、
生徒に身体を変えさせようとするのではなく、
レッスン内容を ・柔軟性が低いまま踊れるようにアレンジするか ・低い柔軟性が改善されるようにアレンジするか
としてはどうでしょうか?
要するに 自分が変わる です。
これならバレエ教師として、 守備範囲が広がることになります。
自分の専門性を生かすことによる改善なので、 試行錯誤しながらもコントロールが効きます。
でも、簡単にできることではないかもしれません。
きっと、生理学などの勉強が必要になるでしょう。
自分なりの答えを作り出すための勉強です。 答えを教えてもらいに行ったら敗北です。
ただし、様々な制約から、 十分な勉強ができない、 ということもあるでしょう。
そういう場合は、 柔軟性を向上させる専門家に任せる道を探りましょう。
餅は餅屋です。
もちろん、バレエ教師自身が、 柔軟性向上の専門家になってしまうというのも十分ありな選択です。
これも自分が変わるです。
そして、自分が餅屋になる、ということです。
自分は変わらずに生徒だけ変えようとするバレエ教師、と
自ら変わって生徒を導こうとするバレエ教師、がいたら
どちらが生徒を上達させられると思いますか?
それは、 生徒のためでもあるし、 教師のためでもあります。
次回はその4についてお伝えします。
参考図書
『バレエの姿勢づくり―ストレッチと体型の矯正』タマーラ・I.ワシーリエフ (著), 佐々木チトセ (著)、かるさびな出版
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