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バレエ演技法から観る「方向」の重要性

大人リーナにとってのア・ラ・スゴンドの方向は悩ましいものです。
 
ターンアウトして真横に出すなんて、できっこない!
 
と、思うのも無理はありません。
 
すごく難しいですからね…。
 

お仕事もご一緒し、バレエ教授法を指南させていただいているバレエトレーニングディレクターの猪野恵司先生は、
 
つま先が向いている方向に出す(解剖学的な構造を優先)か、
真横に出す(バレエにおける動きの方向性を優先)か、
どちらを優先させるかは、先生の腕の見せ所。
 
と、方向についての見解を述べられています。(参照ブログ大人のアラセコンドはどこに出すべきか?)
 
さて、上記2つの使い方。
 
どちらを優先させるべきでしょうか?
 
そもそも2つでいいのかどうか。
 
少し探ってみましょう。
 
まず大前提として、バレエは舞踊劇です。
 
舞踊と演技が統合されたものです。
 
舞踊には舞踊に対する法則があり、
演技には演技に対する法則があります。
 
そして、
舞踊を習得させるのがバレエ教授法
演技を習得させるのがバレエ演技法となります。
 
バレエ教授法は、いつものレッスンで接しているものですが、バレエ演技法にはあまり馴染みがないかもしれません。
 
そのためバレエ演技法については、知られていないことが多々あるように感じています。
 
たとえば、「方向」はバレエ演技法の中で絶対的な存在です。
 
悪役は下手から登場する、とか
悪役の進行方向は下手から上手、とか
良い役はその反対、とか…。
 
方向自体に劇を進める上での意味があるのです。
 
レッスンでよく聞く「つま先を90度外に向ける」といった舞踊技術の方向とは異なります。
 
その他にもたくさんの決まりごとがあります。
 
さて、この二つの関係はどうなっているかというと、まずバレエ演技法があって、その表現のためにバレエ教授法が必要というものです。
 
バレエ教授法の上位概念としてバレエ演技法が存在しているわけです。
 
バレエには、舞台で決められた8つの方向がありますね。
 
演技法の観点から言うと、この8つの方向は、どんなことがあっても守らないといけないということになります。
 
「まず方向ありき」
 
という絶対的な存在です。
 
ワガノワ・バレエ・アカデミーの1年生の初日のレッスンでは、

  1. 規則正しく一列に並ぶ
  2. 円になって行進する
  3. 両手バーでの腕の置き方を学ぶ
  4. 舞台の方向を学ぶ
  5. トランポリンジャンプをする
  6. 足のポジションの種類を学ぶ
  7. ワルツの曲で簡単な腕の動きを学ぶ
  8. レッスンの最後と終わり用のおじぎを学ぶ、etc.

上記のような順序でレッスンが進みます。
 
上記が順調に進めば、上体の立て方・足のポジションの行い方・手のポジションの行い方、に移ります。
 
手のポジションは2日目に持ち越されることもあります。
 
歩くことに大変重要度を置いていることがわかります。歩くことは重心移動の基本中の基本です。
 
そして舞台の方向を学びます。
 
プリエなどバーで行うバレエの動きを学ぶ前に、方向を学ぶのです。
 
方向があって、その次にバレエの動かし方、という順序です。
 
本題に戻ります。
 
ア・ラ・スゴンドで出す脚の方向は、やはり真横です。
 
8つの方向のうちの1番の方向は正面です。
 
皇帝の方向
 
と呼ばれています(『アマデウス』という映画で、オペラを鑑賞する皇帝ヨーゼフ2世が正面の席に座っていましたね)。
 
皇帝に対して、脚をア・ラ・スゴンドに出す場合、一番脚が長く見えるのは真横です。斜め前ではなく。
 
脚がターンアウトか、ターンインかは関係ないですね。
 
舞台では、脚が長く見えなくてはならないのです。
 
絶対的なルールなのですから。
 
脚が高くなったときに、ターンインだと動かし難いから、ターンアウトさせるようになりました。
 
動かし方(ターンアウト)が先ではなく、方向が先にあっての話です。
 
私には以前、解剖学知識を取り入れた結果、「つま先の方向(斜め前)に脚を出す」といった指導をしていた時期があります。
 
中庸ポジション
 
ですが、バレエ教授法の理解が深まった現在、それは間違いだったと言えます。
 
解剖学的な観点というものは、バレエにおいては教授法よりも下です。

  1. バレエ演技法
  2. バレエ教授法
  3. 解剖学的に理にかなった動かし方

 
この順序になります。
 
こういう観点で、私は真横に出すように指導します。膝が前を向いていても…。
 
ですが、バレエ教授法の原則ではターンアウトをしないといけません。
 
そこで真横に出しながらも、いかにターンアウトするかということにフォーカスして法則を伝えるようにしています。
 
確かに解剖学的に理にかなった動かし方というものがあります。
 
それを充分に活用することには特に怪我の予防という点で大きな意味があります。
 
しかし、バレエは解剖学に合わせて作られたものではありません。
 
「解剖学的」概念からかけ離れていることも多くあります。
 
脚のア・ラ・スゴンドなどは、まさしくその代表例なのだと思います。
 
トレーナーさんの観点では、解剖学的にはこう動くという考えが主体となるのは当然です。
 
怪我の予防や怪我からの復帰、上達をサポートする体作りといったことを生徒さんに提供するには、そうあるべきだと思います。
 
しかし、バレエ教師は、(バレエ的には)一段上のバレエ教授法の観点でバレエを捉えるべきです。
 
今回の猪野先生のブログを通して、このような展開のお話ができるのは、大変うれしいことです。
 
猪野先生の先ほどの言葉
 
「どちらを優先させるかは、先生の腕の見せ所」
 
これはこんな風に書き換えることができます。
 
「どちらを優先させるかは、トレーナーさんの腕の見せ所」
 
一つの考え方から、様々な考えへと思考が広がり、それが生徒さんのバレエの中で統合されていく。
 
こういった建設的な展開は、バレエ界にとって大変意味のあることだと思います。
 
トレーナーの立場でバレエ教授法を学ばれている猪野先生には、その謙虚かつ真摯な姿勢に感服いたします。
 
猪野先生に感謝しながら、この記事を書き終えます。
 
 
参考図書
※横に対する方向の「ア・ラ・スゴンド」は、『バレエ用語辞典』(川路 明著 東京堂出版 昭和55年初版)の記載と同一にしました。

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