
ワガノワやRADなどバレエにはいくつかのメソッドがありますね。
では、それらメソッドの違いがどこから来ているかご存知でしょうか?
これに関連して、ワガノワ・バレエ・アカデミー ニコライ・ツィスカリーゼ校長は、
「距離感・空間の差がメソッドの差」
と仰っていました。(2017.7.19@新国立劇場 公開レッスンにて)
「メソッド」と一言でくくってしまうとあまりに広範囲なので、今回は白鳥の湖の「動き」に注目して考察してみます。
作品を鑑賞する時、その作品がどこで初演されたか気にしていらっしゃるでしょうか?
作品の歴史にはあまり興味がない?
いえいえ、この初演の劇場と踊り方には、密接な関わりがあるのです。
バレエの代表作品と言えば、
白鳥の湖
白鳥の湖は、1877年3月4日 モスクワ・ボリショイ劇場バレエ団で初演されています。
最も知られている版は、プティパ=イワノフ版で、1895年1月15日にマリインスキー劇場で蘇演されたものです。
白鳥の登場部分は、多くの版でイワノフの振付がほとんど原形のまま見られると言われております。
ここで、その登場部分をイワノフ版のオリジナル劇場であるマリインスキー劇場の踊りで見てみましょう。
続いてロイヤル版。
ABT版。
ダンサー同士の間隔の違いに気付かれたでしょうか?
ロイヤルとABTは、ダンサー同士の間隔が狭いです。
さらに、アラベスク・ソテをしたあとの移動の歩幅が違います。
マリインスキーは、膝を伸ばして大きく4歩移動します。
ロイヤルとABTは、膝を曲げて小さく4歩移動します。
膝を伸ばして行うか、曲げて行うか。
マリインスキー劇場はとても広いです。ボリショイはもっと広い…
広い舞台で、提示されたステップで舞台の端から端まで移動するには膝を伸ばして行う必要があります。
狭い舞台で膝を伸ばすと提示したステップが舞台の端で余ってしまいます。
だから、マリインスキーに比べて舞台が狭いロイヤルとABTのダンサー同士の間隔が狭くなるのは仕方のないところ。
このように舞台の広さと動きの大きさには密接な関わりがあります。
たとえば、ロシア・メソッドでは移動はタンデュが基本です。
歩くときは膝を伸ばしてタンデュで歩きます。
広い舞台で移動するには、タンデュで膝を伸ばすことが必須だからです。
パ・ドゥ・ブーレはどっちの脚から始める? でも触れましたが、
ロシア・メソッドが移動の際にもっとも大事にしている概念は、
「少ない歩数で遠くへ行く」
です。
これは舞台の広さに合わせた踊り方と言えます。
ニコライ・ツィスカリーゼ校長が言うところの
「距離感・空間の差がメソッドの差」
から考える
「動きの差」
が、白鳥の登場部分を見てもよくわかりますね。
舞台の広さに合わせた振りがあり、舞台の広さに合わせたダンサーの数があります。
振りの大きさやダンサーの数で作品を見比べてみるのも面白いものです。
小さい動きの中の叙情性、大きな動きのダイナミックス。
どちらもバレエには必要な要素です。
舞台の広さによってどの要素が重視されるのか。
舞台の鑑賞の仕方の幅が広がる2つの要素。
今後、バレエ鑑賞なさる際の目安に加えてみてはいかがでしょうか。
参考記事: