
腕を閉じるときと、開くときでは、そのニュアンスはまるで違います。
ポール・ドゥ・ブラでは腕の形もとても大事ですが、ニュアンスを持って動かすことがとても大事です。
ニュアンスの前に動かし方についてロシア人の先生にご教授いただきましょう。
まずはワガノワ先生から、第2ポジションから準備のポジションへの下ろし方について…
両腕が第2ポジションに至ったとき、静かな深い、しかし大げさにならない呼吸をしながら手を開く(肩を上げてはいけない!)。そして手のひらを下に返し、息を吐きながら、ゆるやかに両腕を下に下ろす。このとき指は、かすかに柔らかく「動きを遅らせる」が、決して強調して手首を折って、この動きを大げさにしてはならない。
〜『ワガノワのバレエ・レッスン』 アグリッピナ・ワガノワ著 新書館発行 84Pより〜※1
動きを遅らせる。これは大事なポイントです。
同じ動きをプリャーニチニコワ先生にご教授いただきましょう。
第2ポジションから準備のポジションに腕を下ろします。下ろす直前に軽く一呼吸し、指先を少し開いてアロンジェの位置にします。肘から指先までのラインが1本の線上にのっているようにし、小指が線を下に引いていくような感じで腕を下ろしていきます。小指を感じていれば、手の平が正しい位置に向いてきます。小指を意識せずに下ろしていくと、手の平が下を向いたり、腕が垂れ下がってしまいます。また、下ろしていく時、指先を少し遅れ気味につけていきますが、手首を折り曲げてはいけません。まず、腕全体が下りてきて、最初に肘、次に手先、最後に指先の順でなめらかに動きを止め、丸いラインを作ります。
〜『ロシアバレエレッスン①初級編 第1学年』 エマ・A・プリャーニチニコワ著 音楽之友社発行 48pより〜※2
肘、手先、指先の順で下ろしていく。これも大事なポイントです。
このように動かしていくと、とても優雅な動きになります。
大人リーナのみなさんは、この動かし方を教わっていますか?
全然違う行い方をしていた! なんてことがないことを祈ります。
ロシア・バレエ教授法では、腕の運び方にも法則があります。
- 腕が広がっていくときは、指先は最初に動く。
- 腕が閉じていくときは、指先は最後に到着する。
第1、第3ポジションから第2ポジションに開く動きは、腕が広がっていきます。このように広がっていくときは、指先は最初に動き始めます。
逆に、第2ポジションから準備、第1、第3ポジションに閉じていくときは、指先は最後にポジションに到着します。
これが、腕の運び方の法則になります。
さらに、法則にニュアンスも加わります。
en dehors の動かし方では花が開くようなイメージを持って指先を使う。
花が開くのですから、顔も動きます。顎を少し上げるようにして華やかさを表現します。
en dedans の動かし方では開いた花が閉じていくようなイメージを持って指先を使う。
花が閉じるのですから少し暗いイメージです。少し弱々しいイメージを頭の角度で表現します。
腕だけでなく、頭や顎の角度で表現するのはロシア・メソッドの表現法です。
さらに、ポドフヴァートという概念も教わります。
このポドフヴァートは回転・跳躍などのテクニックで使う重要な動かし方の一つで、「すくい上げる腕の動き」のことです。
この概念を知っているか否かで踊りに大きな違いが生まれます。
ロシア・バレエ・メソッドでは脚の動きを助けるための腕を重要視します。
脚だけで動こうとすると硬い動きになりますし、脚への負担が大きくなります。
そこで腕の動きを借りて助けてもらうようにします。
このとき威力を発揮するのがポドフヴァートです。
ポドフヴァートは、第2ポジションから第1ポジションへ入る際に使われる動きです。第2ポジションから準備のポジションへ入る際も使います。
この動きを理解せずにポール・ドゥ・ブラの動きをただなぞっても意味がありません。
逆に、ポドフヴァートを知ると、それを知らずに動かしている腕が不自然に見えるようになります。
以前の記事でもこのポドフヴァートについて解説しているので、興味ある方は下記のリンク先をご覧ください。※3
さて、ポール・ドゥ・ブラを意味のある動きにするためには、腕の動きがどのような場面で使われるのかを理解している必要があります。
理解しているかどうかは、下記の質問で分かります。
・ポール・ドゥ・ブラの目的をご存知ですか?
・動かし方のニュアンスをご存知ですか?
・花が開くとか、花が閉じていくとか、メソッドで表現しようとしている微妙なニュアンスをご存知ですか?
・そしてそれらのデモンストレーションをレッスンで見ていますか?
「イエス」が多いほど理解している可能性が高いです。
ただ動かし方を真似しようとしているだけだとしたら、それは「なんちゃってバレエ」にしかなりませんよ。
大人リーナのみなさんは、ご自身が習っているのがメソッドに忠実な「バレエ」なのか「なんちゃってバレエ」なのか、きちんと見極められるようになりましょう。
今回ご紹介したいくつかのニュアンスを身につけるだけで、腕の動きが様変わりするはずです!
お楽しみに!
参考資料
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ロシア・バレエでのこの呼び名の手の動き、分かりますか?
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